スーパーなど食料品店などで精米の品薄が続いている。大阪府の吉村府知事は備蓄米の放出を要請するほどで、小規模な食料品店では数日にわたって入荷がないという事態も起きている。
インターネットなどでは「マスコミの報道によってコメの買い占めが起こり、コメ不足になった」という言説が一部で支持されている。
しかし、朝日、産経、日経、毎日、読売の全国紙五紙が米不足を重点的に取り扱い始めたのは朝日新聞の八月二五日を除けば、八月二七日以降のことだ。朝日新聞のみは八月六日に埼玉県のスーパーでコメが品薄となり、一人当たりの数量制限が設けられてるという記事を掲載している。
しかし、このときはそれほど米不足は問題にならず、吉村知事の備蓄米放出要請まで約三週間の期間がある。朝日新聞のこの報道をコメ不足の直接要因とするのは不適当だ。
朝日新聞のほかにもコメ不足を事前に取り上げていたのは毎日新聞だ。七月九日に鹿児島県で全国で最も早い新米の収穫が行われたという記事の中で、農家の方がインタビューに応じ「コメ不足で価格が上昇している」と応じた一文が掲載された。これは朝日新聞の初出記事の約一か月前の報道だ。
食料品店のコメが品薄になる一か月近く前からコメ不足は農家によって指摘されていた。コメ不足の直接の原因はマスコミにあるとは断定できないのが現状だ。
しかし、吉村知事の会見以降は五紙ともコメ不足についての記事を連日掲載している。その影響を受けて「買えるうちに確保する」という行動がおき、コメ品薄の長期的な一因になっていることは否定できない。
マスコミが報道することの意義は大きく、健康食品としてテレビや新聞で紹介された食品が品薄になるという減少は、納豆などを中心に何度も発生している。
しかし、これはあくまで品薄が長期化していることが原因だ。八月後半からの長期的な品薄の背景には「災害への備え」があるとみられる。
八月八日に発令された南海トラフ地震臨時情報に伴う備蓄のための購入や、八月二二日に発生し、九月一日まで九州地方や東海地方などで大雨をもたらした台風一〇号による運送業への影響、備蓄のための購入が大きな影響を与えている。
吉村知事の備蓄米放出要請は台風上陸の前日にあたる二六日。この時にはすでに台風は九州地方などで大きな影響を与えていた。台風発生から四日目であり、台風への備えとしてコメの購入が進んだ可能性が高い。
さらに令和五年度のコメの生産量は前年と比較し一一万トン少ない七一六万トン。二年前にあたる令和三年と比較すると四〇万トン減少している。農家の後継者問題や高齢化、生産に必要な設備投資の費用高騰などがコメの生産量の減少と価格上昇を起こしている。
今回のコメ不足は新米の収穫と市場流通に伴い解消される見込みではあるが、コメの生産量を増加させない限り、同様の問題が発生する可能性は高い。特に南海トラフ巨大地震が発生した場合には交通網に大きな打撃を受け、全国的に流通に問題が生じる可能性もある。
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